モルダウに抱かれて(終)

 

最後の朝が来た。 窓の外でクルクル音がするので見てみると、ハトさんだった。 なんだ、起こしてくれたのか・・・。 「ドブレラーノ・・・ジェクィ!」 

ああ・・・伸びをしながら深呼吸すると、真夏なのに清涼感のある風が喉を通ってゆく。 両手を上げた僕に驚いて、ハトは奥の建物の屋根まで飛んで行ってしまった。



フランスの煙草を一本取り出し、締まりの悪い木の扉を押し開け、プラハの空に浮かぶ雲に向かって煙をはいている。  




ホテルの中二階、アールヌーボー甚だしい空間に食堂がある。 

ボヘミアハムとパンとヨーグルトを食べ終わると、喧騒のヴァーツラフに飛び出した。 もう時間がない。 こんなに好きになった国とお別れしないといけないのだ。 

ボヘミアの聖なる河、モルダウ沿いの道を歩いている。 朝日に照らされ美しく光るこの河を目に焼き付けている。 公園に入ると大型犬を連れたサングラスの女性が「おはよう」と言いながら挨拶してくれた。 僕も笑顔で頭を下げた。

この公園には貸しボートがあるようだ。 女性にお金を渡すと、モルダウのマップを見せられ、2km.くらいの範囲ならボートで自由に散策して良いと言っている。

さっそく、モルダウにボートを浮かべ、オールに力を込め、漕ぎ始めた。

横を見ると、僕に負けたくないのか、鴨が全力で泳いでいる。 途中で足を出し、水しぶきをピシャピシャ上げ、頭を掻きながらも、僕のボートに全力で寄って来るのだ。 ボートの先に光が反射している。 ああ、僕の胸にかけられたイエズスのロザリオなのか・・・。




この国は、あまりにも美しかった。 人の心が深く、そして美しいほど、その国の芸術には磨きがかかる。 まさにこの国はそれを物語っているようだ。 


僕はこの旅で大切なことを教えてもらった。


常に人間は、未来において守りたい人の為に生きているという事だ。 つまり、1000〜2000年後の為に、今を生きているといっても過言ではない。

人が人に与える影響力、人が人に与える感動、人が人に与える直向さと技術。 人が人に贈る道徳・・・。 

その全ては守りたい人が暮らす未来の為なのだ。 そもそも「人生」というものは、自分や自分に良くしてくれた人の為だけにつかうものではない。 一般家庭で交わされる「勉強しなさい!自分のためでしょ!!」という教育的な会話を百聞してきたが、これは教育でもなんでもなかった。 「学ぶ」という事は自分のためだけではないのだ。 そして、親切を受けたら、その人に恩を同じだけ返さないといけないと思いながら生きてきた人も多いだろうが、人間はそんな「義理」だけに生きているものでもない。 

プラハに立ち並ぶ百塔、その姿は1000年の時を超え、人間の底力を見せ続けている。 ヤン・フス、ヤン・パラフは焼け焦げた姿を人々の心に残し、民族独立の精神を今も尚、見せ続けている。 偉大なものを造り上げること、偉大なものを人々の心に残すこと・・・やり方は違えど、何かを創るという意味では同じことである。



「仁」があってこそ、「義」が生きるという事を改めて実感させてくれたプラハ。 



しかし悲しいことに現在、この世には愚かな人間が多すぎる。

自分の立場を守るために弱い立場の人間を蹴落とす奴、自分の欲求を満たすためだけに一所懸命な奴、自分の沽券のためだけに詭弁を振りかざす奴、自分の不利益を避けるため道徳を逸し「正義という名の愚かな我侭」を振りかざす奴・・・。


知識も愛も表現できない権力者・・・そんなものは、宇宙のゴミといってもよいだろう。


そういう輩が、社会の中で力を持っている事、そしてそういう輩の刹那主義に殺され行く未来への希望・・・ 我々は「愚かな仕組み」の中で今を生きている。 それらを憂いながら、異国で蒼い空を眺めているのだ。


ああ、ひとつの時代が終わろうとしているんだな・・・。


ヤン・フスやヤン・パラフの大きな愛が、このチェコを包み込むように、私たちも大切なものを憂い、そして心底から愛し、変えなければならない。

やがて淘汰される愚かなる権力との決別、そして新たに生まれようとしている文明とともに我々は生きていく。 




気がつけば、ボートの中で寝てしまっていた。



さぁ、起き上がらなくては・・・旅はこれからだ。 日本に帰るのではなく、日本へ旅するのだ。 ボヘミアの祈り、そして彼らの精神とともに。

                              




迷える30代は千鳥足でプラハの石畳にけっ躓きながら思った。
「この一杯の為に生きている」ではなく、「この一杯の美味さを分かち合いたい。 頑張っている人々と」
         


                               (終)



みなさん、長い長いボヘミアの旅シリーズは今日で最終回です。 駄文を読んでくださって本当に有難うございます。

コメント
ゆいさん、はじめまして。コメント有難うございます。 そうです…相変わらずなんです。 色んなところに行かせてもらい、勉強させてもらっています。 あっ、そーですよ。ゴロワーズです。 フランスのTABACで「僕は何を吸ったらいい?」と聞くと、「これを吸いな」と勧めてもらってから、病み付きです。 エスプレッソとマリアージュですよ。(笑)

なんでさん、いつもお世話になっております。

>相手側陣営に攻撃のポイントを与える隙だらけなのだ。

これは問題ですよね・・・。 今まで恵まれすぎたんで、知的ハングリーがないのかな??
  • suu
  • 2010/01/03 6:48 PM
>人の心が深く、そして美しいほど、その国の芸術には磨きがかかる。

→悩ましい一言だ。今の韓国の民度。この国から昔の様な、芸術は出て来ないのは当り前だ。高麗の青磁、朝鮮初期の白磁、、、 特に思うに、資本主義の総本山のある勢力に多分に操られているだろう左派の学生、労組、政治家、ジャーナリスト、学者など、韓国を蝕んでいる勢力は数多居る。しかし、右派も問題多く、彼等を圧倒的に説き伏せるだけのものを持ち合わせていない。相手側陣営に攻撃のポイントを与える隙だらけなのだ。いつになれば鮮やかなる朝の国、東方礼儀の国になるのだろう。
  • なんで
  • 2009/12/31 6:25 PM
はじめまして。
ソウル在住10年の主婦です。
ノドン2号のほうには昔よくお邪魔していましたが(読み逃げでしたけど)こちらには初めてです。

久しぶりにすーちゃんの紀行文を読みましたが
いろいろ考えました。
相変わらずな、すーちゃんですね。
褒め言葉ですよ。

韓国人って心が大きいですよね。
「ありがたいな〜」って思った事、何度もあります。
なかなかそれを素直に表現できない私なので、
大韓紀行のすーちゃんの素直さには
いろいろ勉強させてもらっていました。

いつのまにか、在韓10年になったけど
いまだに韓国の人々(私の場合、こちらの家族と近所の人)の大きな心に
受け入れてもらっているのを実感する日々です。

ちなみに一番上の写真のフランスのタバコって
「ゴロワーズを吸った事があるかい?」の
ゴロワーズですよね?
見たの初めてですわ〜。
ちょっと感動ですわ。

またちょくちょくお邪魔します。












  • ゆい
  • 2009/12/31 4:35 PM
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